@IDX:20600
@OFF:0xe7
@SPK:
@JPN:　………………。
@ENG:

@IDX:20601
@OFF:0x119
@SPK:
@JPN:　…………。
@ENG:

@IDX:20602
@OFF:0x147
@SPK:
@JPN:　……。
@ENG:

@IDX:20603
@OFF:0x1d1
@SPK:
@JPN:　窓から差し込む朝日……夏の日差しが瞼をすり抜け　その眩しさで目が覚める。
@ENG:

@IDX:20604
@OFF:0x229
@SPK:
@JPN:　重い身体を引きずるように、布団から這い出る。
@ENG:

@IDX:20605
@OFF:0x275
@SPK:
@JPN:　寝間着代わりに着ていたシャツを脱ぎ捨て、新しい　服に袖を通していく。
@ENG:

@IDX:20606
@OFF:0x2c9
@SPK:
@JPN:　まだ７時。
@ENG:

@IDX:20607
@OFF:0x2e3
@SPK:
@JPN:　昨日約束した時間まで、まだ１時間もある。
@ENG:

@IDX:20608
@OFF:0x31b
@SPK:
@JPN:　仕事の準備をするには、長すぎるくらいだ。
@ENG:

@IDX:20609
@OFF:0x361
@SPK:
@JPN:　作業は簡単、あとは考え方次第……鏑木さんの言葉　が、急に脳裏に蘇ってくる。
@ENG:

@IDX:20610
@OFF:0x3bb
@SPK:
@JPN:　確かに昨日見た限りは、それほど難しそうな作業は　なかった。
@ENG:

@IDX:20611
@OFF:0x405
@SPK:
@JPN:　だが、それを僕がやれるか……いまだに、否定的な　答えしか出てこない。
@ENG:

@IDX:20612
@OFF:0x467
@SPK:
@JPN:　……もちろん、やらなければいけないのは分かって　いる。
@ENG:

@IDX:20613
@OFF:0x4ad
@SPK:
@JPN:　自分にはそれ以外に選べる道はなく、やらなければ　今の環境……職も住処も失うことも。
@ENG:

@IDX:20614
@OFF:0x50f
@SPK:
@JPN:　そう頭では理解できていても、心が受け入れてくれ　ない。
@ENG:

@IDX:20615
@OFF:0x563
@SPK:
@JPN:　何をされても抵抗すら見せない、どこを見られても　身じろぎ一つしない。
@ENG:

@IDX:20616
@OFF:0x5b7
@SPK:
@JPN:　グッタリと、鏑木さんのされるがままになっていた　女性……あれが死体。
@ENG:

@IDX:20617
@OFF:0x60b
@SPK:
@JPN:　死体をブラシで擦り、あまつさえ、引き上げる時は　抱えなくてはならない。
@ENG:

@IDX:20618
@OFF:0x661
@SPK:
@JPN:　死体の脇の下に腕を入れ、胸にもたれさせながら。　
@ENG:

@IDX:20619
@OFF:0x6b1
@SPK:
@JPN:　作業の手順など、問題じゃない。
@ENG:

@IDX:20620
@OFF:0x6df
@SPK:
@JPN:　全ては、僕自身の心の問題……だからこそ、余計に　タチが悪い。
@ENG:

@IDX:20621
@OFF:0x72b
@SPK:
@JPN:　たとえ自分でやるとしても、側に誰かいてくれれば　もう少し安心できるだろうが……。
@ENG:

@IDX:20622
@OFF:0x79b
@SPK:
@JPN:　時計の針が、もうすぐ８時を指す。
@ENG:

@IDX:20623
@OFF:0x7cb
@SPK:
@JPN:　とうに着替えも終わり、あとは部屋を出るだけ。
@ENG:

@IDX:20624
@OFF:0x807
@SPK:
@JPN:　これ以上考えても、昨夜と同様に思考が堂々巡りを　してしまう。
@ENG:

@IDX:20625
@OFF:0x863
@SPK:
@JPN:　あとは考え方次第……。
@ENG:

@IDX:20626
@OFF:0x889
@SPK:
@JPN:　鏑木さんの言葉が記憶の中でリフレインする。
@ENG:

@IDX:20627
@OFF:0x8c3
@SPK:
@JPN:　最初から逃げ腰では、慣れることなんて到底できは　しない。
@ENG:

@IDX:20628
@OFF:0x90b
@SPK:
@JPN:　まずは、やってみよう……悩むのはそれからだ。
@ENG:

@IDX:20629
@OFF:0xa0c
@SPK:
@JPN:　病院の地下、最下層に位置する区画。
@ENG:

@IDX:20630
@OFF:0xa3e
@SPK:
@JPN:　今日は一人でここにいる。
@ENG:

@IDX:20631
@OFF:0xa76
@SPK:
@JPN:　８時にここで待ってる……そう言ってたはずだが、　まだ御堂さんは来ていない。
@ENG:

@IDX:20632
@OFF:0xad0
@SPK:
@JPN:　デートの待ち合わせではないのだから、５分程度の　遅れで帰ってしまうわけはないだろう。
@ENG:

@IDX:20633
@OFF:0xb34
@SPK:
@JPN:　そうすると、時間を間違えたか？
@ENG:

@IDX:20636
@OFF:0xc04
@SPK:[\protag]
@JPN:　あ、おはようございます。
@ENG:

@IDX:20638
@OFF:0xc61
@SPK:［悠紀］
@JPN:　どうなさったんですか？　まだ私服のままで……着替えなくてもよろしいんですか？
@ENG:

@IDX:20641
@OFF:0xce5
@SPK:[\protag]
@JPN:　え、あの、僕も、今来たところなんで……。
@ENG:

@IDX:20643
@OFF:0xd52
@SPK:［悠紀］
@JPN:　そうですか……ではこちらでお待ちしておりますので、先に着替えてください。
@ENG:

@IDX:20646
@OFF:0xdd2
@SPK:[\protag]
@JPN:　は、はあ……。
@ENG:

@IDX:20647
@OFF:0xe12
@SPK:
@JPN:　別に温かい言葉を期待していたわけではない。
@ENG:

@IDX:20648
@OFF:0xe4c
@SPK:
@JPN:　せめて普通の挨拶を返して欲しかった。
@ENG:

@IDX:20649
@OFF:0xe80
@SPK:
@JPN:　だが、御堂さんの口から紡ぎ出されたのは、素っ気　ない挨拶の言葉ですらなかった。
@ENG:

@IDX:20650
@OFF:0xede
@SPK:
@JPN:　いきなり仕事に関する話。
@ENG:

@IDX:20651
@OFF:0xf06
@SPK:
@JPN:　愛想のない表情と相まって、非難されているような　気になってくる。
@ENG:

@IDX:20652
@OFF:0x101b
@SPK:
@JPN:　彼女にそんな気はないのかもしれないが、僕はそう　感じてしまった。
@ENG:

@IDX:20653
@OFF:0x106b
@SPK:
@JPN:　これではうまく会話などできない。
@ENG:

@IDX:20654
@OFF:0x109b
@SPK:
@JPN:　もちろんそんな場合ではないのは百も承知だ。
@ENG:

@IDX:20655
@OFF:0x10d5
@SPK:
@JPN:　だが、できれば彼女とは普通に話したい。
@ENG:

@IDX:20656
@OFF:0x110b
@SPK:
@JPN:　異常な状況に触れる前に、できるだけ普通の状況に　浸っておきたい。
@ENG:

@IDX:20657
@OFF:0x115b
@SPK:
@JPN:　それは贅沢な願いだろうか？
@ENG:

@IDX:20660
@OFF:0x12d2
@SPK:[\protag]
@JPN:　……お待たせしました。
@ENG:

@IDX:20662
@OFF:0x132d
@SPK:［悠紀］
@JPN:　これからは私が来る前に着替えを済ませて、更衣室の中で待機していてください。
@ENG:

@IDX:20665
@OFF:0x13af
@SPK:[\protag]
@JPN:　先に……ですか？　打ち合わせの前に？
@ENG:

@IDX:20667
@OFF:0x1418
@SPK:［悠紀］
@JPN:　はい。時間が勿体ないですし、その格好のまま人目に触れる場所にいられるのも問題がありますから。
@ENG:

@IDX:20670
@OFF:0x14ac
@SPK:[\protag]
@JPN:　人目に触れるって……こんなところ、誰も来ないでしょう？
@ENG:

@IDX:20672
@OFF:0x1527
@SPK:［悠紀］
@JPN:　そうでもありません。すぐ側に霊安室がありますし、ボイラーの検査に来る業者の方もいらっしゃいます。
@ENG:

@IDX:20675
@OFF:0x15bf
@SPK:[\protag]
@JPN:　そうですか……分かりました。
@ENG:

@IDX:20677
@OFF:0x1620
@SPK:［悠紀］
@JPN:　では、こちらへお願いします。部屋の中で仕事についてお話ししますから。
@ENG:

@IDX:20678
@OFF:0x17a9
@SPK:
@JPN:　御堂さんに続いて、更衣室に戻る。
@ENG:

@IDX:20679
@OFF:0x17d9
@SPK:
@JPN:　若い看護婦とこんな狭い部屋で二人きり……。
@ENG:

@IDX:20680
@OFF:0x1813
@SPK:
@JPN:　普通なら気持ちが浮き立つのかもしれない。
@ENG:

@IDX:20681
@OFF:0x184b
@SPK:
@JPN:　でも、この後の仕事のことを考えると、逆に気持ち　は沈んでいく。
@ENG:

@IDX:20682
@OFF:0x1899
@SPK:
@JPN:　目の前の御堂さんの素っ気ない顔を見ると、さらに　テンションが下がる思いがする。
@ENG:

@IDX:20683
@OFF:0x1905
@SPK:
@JPN:　彼女の表情は揺らぎもしない。
@ENG:

@IDX:20684
@OFF:0x1931
@SPK:
@JPN:　この仕事を続ける限り、仕事の前と後に彼女と会う　……だからこそ仲良くしたいと思っても、むこうに　その気はないらしい。
@ENG:

@IDX:20685
@OFF:0x19b5
@SPK:
@JPN:　まるで訓練された兵士か感情のない機械のように、　素っ気なく話を進めていく。
@ENG:

@IDX:20687
@OFF:0x1a58
@SPK:［悠紀］
@JPN:　……聞いてますか？
@ENG:

@IDX:20690
@OFF:0x1aa2
@SPK:[\protag]
@JPN:　え？　……あ、その……ごめんなさい。ぼんやりしてました。
@ENG:

@IDX:20692
@OFF:0x1b1f
@SPK:［悠紀］
@JPN:　……仕事中にぼんやりしてると、思わぬ事故の元になります。注意してください。
@ENG:

@IDX:20695
@OFF:0x1ba1
@SPK:[\protag]
@JPN:　はい。あの、それで……。
@ENG:

@IDX:20697
@OFF:0x1bfe
@SPK:［悠紀］
@JPN:　本日は１体、性別は男性。報告書に特記事項はなし……つまり傷などはありません。
@ENG:

@IDX:20699
@OFF:0x1c8f
@SPK:［悠紀］
@JPN:　ここまでが、先程お話しした内容です。
@ENG:

@IDX:20702
@OFF:0x1ceb
@SPK:[\protag]
@JPN:　あ、ありがとうございます。
@ENG:

@IDX:20704
@OFF:0x1d4a
@SPK:［悠紀］
@JPN:　いえ。それより、何かご質問は？
@ENG:

@IDX:20707
@OFF:0x1da0
@SPK:[\protag]
@JPN:　そうですね……。僕の仕事が終わるまで、御堂さんはここにいるんですか？
@ENG:

@IDX:20709
@OFF:0x1e29
@SPK:［悠紀］
@JPN:　いいえ、私にも仕事がありますから……あなたが終了の連絡をしてから、こちらへ戻って参ります。
@ENG:

@IDX:20712
@OFF:0x1ebb
@SPK:[\protag]
@JPN:　その間はどちらへ？
@ENG:

@IDX:20714
@OFF:0x1f12
@SPK:［悠紀］
@JPN:　前にも言ったはずですが、普段はナースステーションに待機しています。仕事で病院内の別の場所へ行っている場合はあるかもしれませんが……それが何か？
@ENG:

@IDX:20717
@OFF:0x1fd8
@SPK:[\protag]
@JPN:　い、いや、ただ何となく……。
@ENG:

@IDX:20719
@OFF:0x2039
@SPK:［悠紀］
@JPN:　もし何かありましたら、職員の方と相談してください。
@ENG:

@IDX:20721
@OFF:0x20b0
@SPK:［悠紀］
@JPN:　昨日も申し上げましたが、私はあの部屋に入ることを認められておりません。ですから、作業中のトラブルに関してはお役に立てないと思います。
@ENG:

@IDX:20724
@OFF:0x216c
@SPK:[\protag]
@JPN:　はあ……。
@ENG:

@IDX:20726
@OFF:0x21bb
@SPK:［悠紀］
@JPN:　他にご質問は？　なければそろそろ仕事に移っていただきたいのですが。
@ENG:

@IDX:20729
@OFF:0x2235
@SPK:[\protag]
@JPN:　あ、はい。特には……。
@ENG:

@IDX:20731
@OFF:0x2290
@SPK:［悠紀］
@JPN:　そうですか……では、頑張ってください。
@ENG:

@IDX:20732
@OFF:0x2308
@SPK:
@JPN:　最後につけ足すように言うと、逃げるように足早に　部屋から出て行った。
@ENG:

@IDX:20733
@OFF:0x235c
@SPK:
@JPN:　笑うどころか、話を聞いてないことが分かっても顔　色一つ変えない。
@ENG:

@IDX:20734
@OFF:0x23ac
@SPK:
@JPN:　仲良くなりたいなんて、考えるだけ無駄……彼女の　態度からは、無言の拒絶さえ窺える。
@ENG:

@IDX:20735
@OFF:0x2424
@SPK:
@JPN:　結局、頼れるのは自分だけ。
@ENG:

@IDX:20736
@OFF:0x244e
@SPK:
@JPN:　彼女のことなど忘れて、自分の仕事に集中した方が　いい。
@ENG:

@IDX:20737
@OFF:0x2494
@SPK:
@JPN:　悩んでいる余裕など、僕にはないのだから……。
@ENG:

@IDX:20738
@OFF:0x25a9
@SPK:
@JPN:　室内の様子は昨日と同じ……何も変わってない。
@ENG:

@IDX:20739
@OFF:0x25e5
@SPK:
@JPN:　空気の冷たさも立ち込めるホルマリンのにおいも、　全て昨日のまま。
@ENG:

@IDX:20740
@OFF:0x2635
@SPK:
@JPN:　床に残る水の跡だけが、昨日とは僅かに違う。
@ENG:

@IDX:20741
@OFF:0x267f
@SPK:
@JPN:　……だが何も変わっていないはずの部屋が、なぜか　薄暗く感じられる。
@ENG:

@IDX:20742
@OFF:0x26d1
@SPK:
@JPN:　ここには、僕だけしかいない。
@ENG:

@IDX:20743
@OFF:0x26fd
@SPK:
@JPN:　死体と二人きり……今日はどんなに話したくとも、　誰も相手をしてくれない。
@ENG:

@IDX:20744
@OFF:0x2763
@SPK:
@JPN:　鏑木さんの作業を、ただ後ろから眺めていただけの　昨日とは違う。
@ENG:

@IDX:20745
@OFF:0x27b1
@SPK:
@JPN:　最初の床の水洗いから最後の連絡まで、全て僕一人　でやらなくてはならない。
@ENG:

@IDX:20746
@OFF:0x2809
@SPK:
@JPN:　もちろん、死体の引き上げも。
@ENG:

@IDX:20747
@OFF:0x2835
@SPK:
@JPN:　僕にできるのか？　朝から頭を占めていた疑問が、　より深刻さを増して浮かんでくる。
@ENG:

@IDX:20748
@OFF:0x28a5
@SPK:
@JPN:　床の水洗いは問題ない。
@ENG:

@IDX:20749
@OFF:0x28cb
@SPK:
@JPN:　死体を浮かばせるのも、何とかできるだろう。
@ENG:

@IDX:20750
@OFF:0x2905
@SPK:
@JPN:　だが、死体を見ても平然としていられるか？
@ENG:

@IDX:20751
@OFF:0x293d
@SPK:
@JPN:　もしできたとしても、僕に抱えられるのか？
@ENG:

@IDX:20752
@OFF:0x2983
@SPK:
@JPN:　力の問題ではない。
@ENG:

@IDX:20753
@OFF:0x29a5
@SPK:
@JPN:　たとえ成人男性だとしても、抱えて引きずるくらい　は造作もない。
@ENG:

@IDX:20754
@OFF:0x29f3
@SPK:
@JPN:　２００キロも３００キロもあれば話は別だが、多少　太っていても何とかなる。
@ENG:

@IDX:20755
@OFF:0x2a4b
@SPK:
@JPN:　問題なのは抱える対象がすでに死んでることだ。
@ENG:

@IDX:20756
@OFF:0x2a97
@SPK:
@JPN:　昨日は抱えずにすんだ。
@ENG:

@IDX:20757
@OFF:0x2abd
@SPK:
@JPN:　それでも、ただ触ってるのを見ただけで思わず顔を　しかめてしまった。
@ENG:

@IDX:20758
@OFF:0x2b0f
@SPK:
@JPN:　もし昨日、触ってみろと言われたら……たとえそれ　が陰部や乳房だったとしても、断ったに違いない。　
@ENG:

@IDX:20759
@OFF:0x2b8f
@SPK:
@JPN:　死体を抱える自分の姿……想像するだけで、思考が　停止しそうになる。
@ENG:

@IDX:20760
@OFF:0x2be1
@SPK:
@JPN:　ぐったりともたれかかる頭部、両腕で引き寄せると　口からホルマリンを吐き出し、腕を濡らす……。
@ENG:

@IDX:20761
@OFF:0x2c4d
@SPK:
@JPN:　そんなこと、僕に耐えられるのか？
@ENG:

@IDX:20762
@OFF:0x2c8b
@SPK:
@JPN:　…………考えるのはやめよう。
@ENG:

@IDX:20763
@OFF:0x2cb7
@SPK:
@JPN:　何度も考え、出した答え。
@ENG:

@IDX:20764
@OFF:0x2cdf
@SPK:
@JPN:　実際にやるまでは、何も分からない。
@ENG:

@IDX:20765
@OFF:0x2d11
@SPK:
@JPN:　今はただ、自分のできることからやっていこう……　そうしなければ、いつまでもここで足踏みすること　になる。
@ENG:

@IDX:20766
@OFF:0x2def
@SPK:
@JPN:　まずは、床の水洗い。
@ENG:

@IDX:20767
@OFF:0x2e13
@SPK:
@JPN:　水を吐き出すホースを手に、部屋の隅から隅までを　歩き回る。
@ENG:

@IDX:20768
@OFF:0x2e5d
@SPK:
@JPN:　多少時間はかかっても、この方法ならホルマリンに　水を混ぜてしまう心配はない。
@ENG:

@IDX:20769
@OFF:0x2ec9
@SPK:
@JPN:　床を濡らした水が、真っ直ぐ排水口へ流れ込む。
@ENG:

@IDX:20770
@OFF:0x2f05
@SPK:
@JPN:　時折誰かの髪の毛を巻き込み、滑らかな床を滑って　いく。
@ENG:

@IDX:20771
@OFF:0x2f4b
@SPK:
@JPN:　……誰のものかなど、考えたくもない。
@ENG:

@IDX:20772
@OFF:0x2fe5
@SPK:
@JPN:　予想通り、床の水洗いは呆気なく終わった。
@ENG:

@IDX:20773
@OFF:0x301d
@SPK:
@JPN:　多少時間はかかったが、鏑木さんの時と同じ様に、　隅から隅まで水浸しになっている。
@ENG:

@IDX:20774
@OFF:0x307d
@SPK:
@JPN:　次は……死体を浮かばせるのか。
@ENG:

@IDX:20775
@OFF:0x310f
@SPK:
@JPN:　道具置き場に立てかけてあった棒を手に、プールを　覗き見る。
@ENG:

@IDX:20776
@OFF:0x3159
@SPK:
@JPN:　……性別までは分からない。
@ENG:

@IDX:20777
@OFF:0x3183
@SPK:
@JPN:　だが、確かに１体……静かな液面を通して、人の形　をした影が見える。
@ENG:

@IDX:20778
@OFF:0x31d5
@SPK:
@JPN:　あれを突けば浮いてくる……それはつまり、一人で　死体と対面することを意味している。
@ENG:

@IDX:20779
@OFF:0x3247
@SPK:
@JPN:　傷ついた死体など、ここには来ない。
@ENG:

@IDX:20780
@OFF:0x3279
@SPK:
@JPN:　そんな知識も、今は何の慰めにもなっていない。
@ENG:

@IDX:20781
@OFF:0x32b5
@SPK:
@JPN:　傷があろうとなかろうと、浮かんでくるのが死体で　あるという事実は変わらないのだから。
@ENG:

@IDX:20782
@OFF:0x3325
@SPK:
@JPN:　鏑木さんの存在が、どれだけ救いになっていたのか　……今更のように思い知らされる。
@ENG:

@IDX:20783
@OFF:0x3385
@SPK:
@JPN:　彼がいたからこそ、死体と対面しても平気でいられ　たのだろう。
@ENG:

@IDX:20784
@OFF:0x33d1
@SPK:
@JPN:　対して彼のいない今はどうか？
@ENG:

@IDX:20785
@OFF:0x33fd
@SPK:
@JPN:　……胸を押し潰すような不安が、心臓を高鳴らせて　いる。
@ENG:

@IDX:20786
@OFF:0x3443
@SPK:
@JPN:　死体なんて見たくない……心が悲鳴を上げている。　
@ENG:

@IDX:20787
@OFF:0x3491
@SPK:
@JPN:　その悲鳴に耳を塞ぎ、ぼんやりとした人影をめがけ　ゆっくりと棒を突き入れる。
@ENG:

@IDX:20788
@OFF:0x34eb
@SPK:
@JPN:　それまで見えていた影が、棒を中心に生まれた波に　かき消される。
@ENG:

@IDX:20789
@OFF:0x3539
@SPK:
@JPN:　もはや人の形を保っていない影……それを狙い、棒　を動かしていく。
@ENG:

@IDX:20790
@OFF:0x3597
@SPK:
@JPN:　手に伝わる硬いとも柔らかいとも言えない感触。
@ENG:

@IDX:20791
@OFF:0x35d3
@SPK:
@JPN:　棒が肉を僅かに窪ませる、鈍い手応え。
@ENG:

@IDX:20792
@OFF:0x3607
@SPK:
@JPN:　弾力をほとんど感じさせないその手応えが、それが　死者の肉体であることを否応なく認識させて、僕を　酷く不快な気分にさせる。
@ENG:

@IDX:20793
@OFF:0x368f
@SPK:
@JPN:　棒を引き抜くと、手に残る感触に顔をしかめながら　死体が浮かび上がるのを待つ。
@ENG:

@IDX:20794
@OFF:0x376f
@SPK:
@JPN:　……。
@ENG:

@IDX:20795
@OFF:0x3785
@SPK:
@JPN:　…………来た。
@ENG:

@IDX:20796
@OFF:0x37a3
@SPK:
@JPN:　ぼんやりと眺める僕の目の前で、男性の頭が波打つ　液面を割って現れる。
@ENG:

@IDX:20797
@OFF:0x37f7
@SPK:
@JPN:　頭を剃り上げられた、彫りの深い顔……やや顔色は　悪いものの、穏やかに眠っているように見える。
@ENG:

@IDX:20798
@OFF:0x3863
@SPK:
@JPN:　本日は１体、性別は男性……仕事前の説明が、何の　脈絡もなく耳元に蘇る。
@ENG:

@IDX:20799
@OFF:0x38c5
@SPK:
@JPN:　心配していた混乱は、彼の顔を見ていても浮かんで　こない。
@ENG:

@IDX:20800
@OFF:0x390d
@SPK:
@JPN:　ただ代わりに、思考が緩慢になった気がする。
@ENG:

@IDX:20801
@OFF:0x3947
@SPK:
@JPN:　なぜだ？　その緩慢に対する疑問が起こした小さな　波紋も、すぐに拡散して消えてしまう。
@ENG:

@IDX:20802
@OFF:0x39ab
@SPK:
@JPN:　……なぜか心がフラットになっていく。
@ENG:

@IDX:20803
@OFF:0x39df
@SPK:
@JPN:　なんの答えも得られぬまま、続いて引き寄せる作業　を開始した。
@ENG:

@IDX:20804
@OFF:0x3a3d
@SPK:
@JPN:　棒が自然に、男性に向かって伸びていく。
@ENG:

@IDX:20805
@OFF:0x3a73
@SPK:
@JPN:　狙うのは脇の下……僅かに開いた脇の下に、先端を　差し込む。
@ENG:

@IDX:20806
@OFF:0x3b63
@SPK:
@JPN:　だが、どうしてもうまくいかない。
@ENG:

@IDX:20807
@OFF:0x3b93
@SPK:
@JPN:　言われた通り脇を狙っているのに、吸い寄せられる　ように首に引っかかる。
@ENG:

@IDX:20808
@OFF:0x3be9
@SPK:
@JPN:　そのたびに、鏑木さんがやってみせたように死体の　首がガクガクと動き、頭を中心に細波が起こる。
@ENG:

@IDX:20809
@OFF:0x3c65
@SPK:
@JPN:　首を狙うとこうなるのか……。
@ENG:

@IDX:20810
@OFF:0x3c91
@SPK:
@JPN:　見て気持ちのいいものではない上に、力が伝わらず　死体が動いてくれない。
@ENG:

@IDX:20811
@OFF:0x3ce7
@SPK:
@JPN:　……やはり、脇の下でなければダメだ。
@ENG:

@IDX:20812
@OFF:0x3d2b
@SPK:
@JPN:　目を逸らさぬようしっかりと死体を見据えながら、　そろそろと棒を伸ばしていく。
@ENG:

@IDX:20813
@OFF:0x3d87
@SPK:
@JPN:　慎重に……もう失敗はしたくない……。
@ENG:

@IDX:20814
@OFF:0x3dbb
@SPK:
@JPN:　その一心で見たくもない死体に焦点を合わせ、脇に　棒の先端を導いていく。
@ENG:

@IDX:20815
@OFF:0x3eb7
@SPK:
@JPN:　ようやくこれで、首の動きを見ないで済む……。
@ENG:

@IDX:20816
@OFF:0x3ef3
@SPK:
@JPN:　昨日説明されたことを忠実に再現しながら、どこか　他人事のように棒を操っていく。
@ENG:

@IDX:20817
@OFF:0x3f51
@SPK:
@JPN:　動くまでは重いが、力を入れすぎない……意識する　までもなく、身体の力は抜けきっている。
@ENG:

@IDX:20818
@OFF:0x3fc7
@SPK:
@JPN:　ゆっくりゆっくり、男性が動き始める。
@ENG:

@IDX:20819
@OFF:0x3ffb
@SPK:
@JPN:　それに伴い、平坦だった心に細波が生まれる。
@ENG:

@IDX:20820
@OFF:0x4035
@SPK:
@JPN:　きっかけなど、何もない。
@ENG:

@IDX:20821
@OFF:0x405d
@SPK:
@JPN:　停止した思考が動き出し、隠れていたそれが一気に　姿を見せる。
@ENG:

@IDX:20822
@OFF:0x40b5
@SPK:
@JPN:　男性の死体……。
@ENG:

@IDX:20823
@OFF:0x40d5
@SPK:
@JPN:　ホルマリンから顔を出して……。
@ENG:

@IDX:20824
@OFF:0x4103
@SPK:
@JPN:　目を閉じた死体……。
@ENG:

@IDX:20825
@OFF:0x4127
@SPK:
@JPN:　死体を引き寄せる作業……。
@ENG:

@IDX:20826
@OFF:0x4151
@SPK:
@JPN:　動き出した死体……。
@ENG:

@IDX:20827
@OFF:0x4175
@SPK:
@JPN:　死体が近づいてくる……。
@ENG:

@IDX:20828
@OFF:0x419d
@SPK:
@JPN:　今まで覆い隠していた事実が、穏やかに見えた心を　大きく揺さぶる。
@ENG:

@IDX:20829
@OFF:0x41fb
@SPK:
@JPN:　男とか女とか、そんなことではない。
@ENG:

@IDX:20830
@OFF:0x422d
@SPK:
@JPN:　目の前に突きつけられた、死体という現実。
@ENG:

@IDX:20831
@OFF:0x4265
@SPK:
@JPN:　周りには誰もいない。
@ENG:

@IDX:20832
@OFF:0x4289
@SPK:
@JPN:　逃げ道などどこにもない。
@ENG:

@IDX:20833
@OFF:0x42b1
@SPK:
@JPN:　ここには僕という人間と男性の死体、その二つしか　存在しない。
@ENG:

@IDX:20834
@OFF:0x430d
@SPK:
@JPN:　死体が、こちらに近づいてくる。
@ENG:

@IDX:20835
@OFF:0x433b
@SPK:
@JPN:　棒を操る手は、すでに止まっている……なのにまだ　死体の動きは止まらない。
@ENG:

@IDX:20836
@OFF:0x4393
@SPK:
@JPN:　ゆっくり、ゆっくり……泳ぐように足下に来る。
@ENG:

@IDX:20837
@OFF:0x43dd
@SPK:
@JPN:　そして、何の前触れもなく止まった。
@ENG:

@IDX:20838
@OFF:0x440f
@SPK:
@JPN:　傾斜して浅くなった部分に乗り上げ、波に揺られて　浮き沈みを繰り返す。
@ENG:

@IDX:20839
@OFF:0x4463
@SPK:
@JPN:　足下で揺れる死体。
@ENG:

@IDX:20840
@OFF:0x4485
@SPK:
@JPN:　次に何をしなければいけないか、させられるのか、　考えるまでもなく思い浮かぶ。
@ENG:

@IDX:20841
@OFF:0x44f1
@SPK:
@JPN:　……死体を抱える。
@ENG:

@IDX:20842
@OFF:0x4513
@SPK:
@JPN:　この死体を抱え、床に引き上げる。
@ENG:

@IDX:20843
@OFF:0x4543
@SPK:
@JPN:　直接この手に抱き、ホルマリンプールの中から引き　ずり出す。
@ENG:

@IDX:20844
@OFF:0x458d
@SPK:
@JPN:　……それも、赤の他人の死体を……。
@ENG:

@IDX:20845
@OFF:0x45cf
@SPK:
@JPN:　ここまでは言ってしまえば『プールの底をさらう』　だけの作業に過ぎなかった。
@ENG:

@IDX:20846
@OFF:0x4629
@SPK:
@JPN:　死体を間近で見るわけでも直接触るわけでもなく、　ただ棒で突いて引き寄せただけ。
@ENG:

@IDX:20847
@OFF:0x4687
@SPK:
@JPN:　だからこそ、相手が死体であっても身体が動いた。　
@ENG:

@IDX:20848
@OFF:0x46d5
@SPK:
@JPN:　だが、死体を抱えるとなれば話が違う。
@ENG:

@IDX:20849
@OFF:0x4709
@SPK:
@JPN:　人の形をした物体。
@ENG:

@IDX:20850
@OFF:0x472b
@SPK:
@JPN:　人形と同じ。
@ENG:

@IDX:20851
@OFF:0x4747
@SPK:
@JPN:　ただの物。
@ENG:

@IDX:20852
@OFF:0x4761
@SPK:
@JPN:　誤魔化す言葉はいくらでもある。
@ENG:

@IDX:20853
@OFF:0x478f
@SPK:
@JPN:　だが……。
@ENG:

@IDX:20854
@OFF:0x47b9
@SPK:
@JPN:　死を象徴する物体。
@ENG:

@IDX:20855
@OFF:0x47db
@SPK:
@JPN:　生きていない人間。
@ENG:

@IDX:20856
@OFF:0x47fd
@SPK:
@JPN:　……死体。
@ENG:

@IDX:20857
@OFF:0x4817
@SPK:
@JPN:　目の前に突きつけられた現実が、下手な誤魔化しを　許さない。
@ENG:

@IDX:20858
@OFF:0x4871
@SPK:
@JPN:　怖いわけではない。
@ENG:

@IDX:20859
@OFF:0x4893
@SPK:
@JPN:　覚悟していたゆえに、突然ではない。
@ENG:

@IDX:20860
@OFF:0x48c5
@SPK:
@JPN:　やらなければいけないのも、頭では充分に理解して　いる。
@ENG:

@IDX:20861
@OFF:0x490b
@SPK:
@JPN:　それでも、抱えようとする意志を行動に移せない。　
@ENG:

@IDX:20862
@OFF:0x495b
@SPK:
@JPN:　やはり無理なのか？
@ENG:

@IDX:20863
@OFF:0x497d
@SPK:
@JPN:　鏑木さんのようにはできないのか？
@ENG:

@IDX:20864
@OFF:0x49ad
@SPK:
@JPN:　腰が引けていても、泣きながらでもいい……何とか　運べないのか？
@ENG:

@IDX:20865
@OFF:0x49fb
@SPK:
@JPN:　……僕はここまでなのか？
@ENG:

@IDX:20866
@OFF:0x4a33
@SPK:
@JPN:　考え方次第……それを昨日は、慣れてしまえという　意味に受け取った。
@ENG:

@IDX:20867
@OFF:0x4a85
@SPK:
@JPN:　初めてだから、慣れていないのは当然……ならば、　慣れるためにはどうすればいい？
@ENG:

@IDX:20868
@OFF:0x4af1
@SPK:
@JPN:　……やるしかない。
@ENG:

@IDX:20869
@OFF:0x4b13
@SPK:
@JPN:　医者になるために……。
@ENG:

@IDX:20870
@OFF:0x4b39
@SPK:
@JPN:　仕事だから……。
@ENG:

@IDX:20871
@OFF:0x4b59
@SPK:
@JPN:　慣れるために……。
@ENG:

@IDX:20872
@OFF:0x4b7b
@SPK:
@JPN:　理由は違うが、行動は一つ。
@ENG:

@IDX:20873
@OFF:0x4ba5
@SPK:
@JPN:　……この死体を、自分の手で運ぶ。
@ENG:

@IDX:20874
@OFF:0x4c46
@SPK:
@JPN:　目を閉じて、深呼吸を繰り返す。
@ENG:

@IDX:20875
@OFF:0x4c74
@SPK:
@JPN:　何のためにこんなことをするのか……それがどんな　価値を持つのか。
@ENG:

@IDX:20876
@OFF:0x4cc4
@SPK:
@JPN:　少しずつ、自分に言い聞かせていく。
@ENG:

@IDX:20877
@OFF:0x4d04
@SPK:
@JPN:　僕の仕事は、彼を教材にすること……。
@ENG:

@IDX:20878
@OFF:0x4d38
@SPK:
@JPN:　生前は普通の日常に生き、仕事や恋に日々の生活を　謳歌していたであろう彼……。
@ENG:

@IDX:20879
@OFF:0x4d94
@SPK:
@JPN:　そして死後、普通の安らかな眠りではなく医学生の　教材として協力してくれる彼……。
@ENG:

@IDX:20880
@OFF:0x4df4
@SPK:
@JPN:　その彼の意思を、無駄にすることはできない。
@ENG:

@IDX:20881
@OFF:0x4e2e
@SPK:
@JPN:　そして、自分自身のためにも……。
@ENG:

@IDX:20882
@OFF:0x4ec4
@SPK:
@JPN:　分厚いゴム長を通して、ホルマリンの冷たい感触が　伝わってくる。
@ENG:

@IDX:20883
@OFF:0x4f12
@SPK:
@JPN:　死体の側にしゃがみ込む。
@ENG:

@IDX:20884
@OFF:0x4f3a
@SPK:
@JPN:　震える腕を、死体の脇の下に差し入れる。
@ENG:

@IDX:20885
@OFF:0x4ff4
@SPK:
@JPN:　何とかここまではできた。
@ENG:

@IDX:20886
@OFF:0x501c
@SPK:
@JPN:　手袋越しに、ゴムのような感触が伝わる。
@ENG:

@IDX:20887
@OFF:0x5052
@SPK:
@JPN:　僅かな弾力と、中途半端な柔らかさ。
@ENG:

@IDX:20888
@OFF:0x5084
@SPK:
@JPN:　力を込めると、肋骨の硬い手触りにぶつかる。
@ENG:

@IDX:20889
@OFF:0x50be
@SPK:
@JPN:　……これが、人間の身体。
@ENG:

@IDX:20890
@OFF:0x50f6
@SPK:
@JPN:　死体の胸回りを手で挟むように腕に力を込める。
@ENG:

@IDX:20891
@OFF:0x5132
@SPK:
@JPN:　鏑木さんのそれと比べ、不格好な持ち方。
@ENG:

@IDX:20892
@OFF:0x5168
@SPK:
@JPN:　もう少し……せめて肘まで脇の下に入れなければ、　彼のようには抱えられない。
@ENG:

@IDX:20893
@OFF:0x51d2
@SPK:
@JPN:　だが、そのためには死体と身体を密着させなければ　ならない。
@ENG:

@IDX:20894
@OFF:0x521c
@SPK:
@JPN:　両腕で死体を引き寄せ、背後から抱きしめるように　抱える……。
@ENG:

@IDX:20895
@OFF:0x5268
@SPK:
@JPN:　そこまでは、どうしてもできない。
@ENG:

@IDX:20896
@OFF:0x52a8
@SPK:
@JPN:　運ぶだけなら、これで充分のはずだ。
@ENG:

@IDX:20897
@OFF:0x52da
@SPK:
@JPN:　力を込めて引くと、少しだけ死体がホルマリンから　出てくる。
@ENG:

@IDX:20898
@OFF:0x5324
@SPK:
@JPN:　抱えるまでもない。
@ENG:

@IDX:20899
@OFF:0x5346
@SPK:
@JPN:　これで動くなら、抱えなくてもいい。
@ENG:

@IDX:20900
@OFF:0x5386
@SPK:
@JPN:　だが死体がホルマリンから出て来るにつれ、徐々に　重みが増していく。
@ENG:

@IDX:20901
@OFF:0x53d8
@SPK:
@JPN:　これが、死体の重さ……外見では計れない重量に、　早くも腕が悲鳴を上げる。
@ENG:

@IDX:20902
@OFF:0x5430
@SPK:
@JPN:　ホルマリンで濡れた肌に、手が滑る。
@ENG:

@IDX:20903
@OFF:0x5462
@SPK:
@JPN:　今は辛うじて指先が腕のつけ根に引っかかっている　だけだ。
@ENG:

@IDX:20904
@OFF:0x54ba
@SPK:
@JPN:　やはり、抱えなければダメだったのか？
@ENG:

@IDX:20905
@OFF:0x54ee
@SPK:
@JPN:　男性の両足がホルマリンから出た瞬間、濡れた肌を　右手の人差し指が滑った。
@ENG:

@IDX:20906
@OFF:0x5546
@SPK:
@JPN:　たったの一本……それだけでバランスが崩れ、他の　指も離れてしまう。
@ENG:

@IDX:20907
@OFF:0x5621
@SPK:
@JPN:　落ちゆく死体を止めようと、咄嗟に腕を掴んだ。
@ENG:

@IDX:20908
@OFF:0x565d
@SPK:
@JPN:　鈍い音が部屋中に響き渡り、同時に奇妙な手応えが　腕に伝わる。
@ENG:

@IDX:20909
@OFF:0x56a9
@SPK:
@JPN:　死体が床に落ちた音ではない。
@ENG:

@IDX:20910
@OFF:0x56d5
@SPK:
@JPN:　もっと歪な、生理的嫌悪感をかき立てる音……。
@ENG:

@IDX:20911
@OFF:0x579f
@SPK:
@JPN:　腕のつけ根が、妙な具合に伸びている。
@ENG:

@IDX:20912
@OFF:0x57d3
@SPK:
@JPN:　左右の肩幅が明らかに違う。
@ENG:

@IDX:20913
@OFF:0x57fd
@SPK:
@JPN:　浮いていた時は、こんな風ではなかった。
@ENG:

@IDX:20914
@OFF:0x5833
@SPK:
@JPN:　あの音は何だ？　あの手応えは……。
@ENG:

@IDX:20915
@OFF:0x5865
@SPK:
@JPN:　なぜこんな風に、死体の腕が伸びている？
@ENG:

@IDX:20916
@OFF:0x58ab
@SPK:
@JPN:　ひょっとして……。
@ENG:

@IDX:20917
@OFF:0x58cd
@SPK:
@JPN:　死体の肩を……。
@ENG:

@IDX:20918
@OFF:0x58ed
@SPK:
@JPN:　外してしまったのか……？
@ENG:

@IDX:20919
@OFF:0x5915
@SPK:
@JPN:　僕が、この手で……。
@ENG:

@IDX:20920
@OFF:0x5949
@SPK:
@JPN:　背筋に悪寒が走る。
@ENG:

@IDX:20921
@OFF:0x596b
@SPK:
@JPN:　ガチガチと歯が鳴って、頭の中がその音でいっぱい　になる。
@ENG:

@IDX:20922
@OFF:0x59b3
@SPK:
@JPN:　死体を傷つけた……その事実が凶器となって、心に　突き刺さる。
@ENG:

@IDX:20923
@OFF:0x5a0f
@SPK:
@JPN:　物言わぬ骸を一方的に傷つけた……いっそ罵倒して　くれれば、どれほど気が楽だろう。
@ENG:

@IDX:20924
@OFF:0x5a6f
@SPK:
@JPN:　だが死体に、そんな芸当はできない。
@ENG:

@IDX:20925
@OFF:0x5aa1
@SPK:
@JPN:　何も言わず、苦痛すら見せず、ただ穏やかな表情で　横たわっている。
@ENG:

@IDX:20926
@OFF:0x5b01
@SPK:
@JPN:　僕は、なんてことをしてしまったんだ……。
@ENG:

@IDX:20927
@OFF:0x5b39
@SPK:
@JPN:　鏑木さんが乱暴に洗ったのとはわけが違う。
@ENG:

@IDX:20928
@OFF:0x5b71
@SPK:
@JPN:　自分が嫌な思いをしないために、適当に作業をして　……その結果がこれ。
@ENG:

@IDX:20929
@OFF:0x5bc5
@SPK:
@JPN:　左右の腕の長さが違う、歪な死体だ。
@ENG:

@IDX:20930
@OFF:0x5c09
@SPK:
@JPN:　どうすればいい？
@ENG:

@IDX:20931
@OFF:0x5c29
@SPK:
@JPN:　どうすれば……。
@ENG:

@IDX:20932
@OFF:0x5c5d
@SPK:
@JPN:なんとかして誤魔化そう
@ENG:

@IDX:20933
@OFF:0x5c7a
@SPK:
@JPN:……素直に謝ろう
@ENG:

@IDX:20934
@OFF:0x5cd3
@SPK:
@JPN:　とりあえず、このまま洗ってしまおう。
@ENG:

@IDX:20935
@OFF:0x5d07
@SPK:
@JPN:　引き上げに使う棒を戻し、デッキブラシとタワシを　持って死体の側に戻る。
@ENG:

@IDX:20936
@OFF:0x5d5d
@SPK:
@JPN:　……誰かに謝りたいと思うのは、僕の勝手な感情に　過ぎない。
@ENG:

@IDX:20937
@OFF:0x5da7
@SPK:
@JPN:　そんなことのために作業を遅らせるのは、それこそ　作業終了の連絡を待っている鏑木さんにも……この　男性にも申し訳が立たない。
@ENG:

@IDX:20938
@OFF:0x5e41
@SPK:
@JPN:　……というのは、あくまで建前に過ぎない。
@ENG:

@IDX:20939
@OFF:0x5e79
@SPK:
@JPN:　本当は、罪を認めるのが怖いから……。
@ENG:

@IDX:20940
@OFF:0x5ead
@SPK:
@JPN:　現実を認めるのが怖いから……。
@ENG:

@IDX:20941
@OFF:0x5edb
@SPK:
@JPN:　できれば忘れてしまいたい……なかったことにして　しまいたい……。
@ENG:

@IDX:20942
@OFF:0x5f3b
@SPK:
@JPN:　だから目の前の現実に目を背け、作業にかこつけて　口をつぐむ。
@ENG:

@IDX:20943
@OFF:0x5f87
@SPK:
@JPN:　卑怯な僕が、逃げるために考え出した結論。
@ENG:

@IDX:20944
@OFF:0x5fbf
@SPK:
@JPN:　そのために考え出した、唯一の逃げ道。
@ENG:

@IDX:20945
@OFF:0x5ff3
@SPK:
@JPN:　そうしなければ、心の安定が保てない。
@ENG:

@IDX:20946
@OFF:0x603f
@SPK:
@JPN:　肩が外れたままの死体を、鏑木さんのお手本通りに　洗い始める。
@ENG:

@IDX:20947
@OFF:0x608b
@SPK:
@JPN:　死体に水をかけて、デッキブラシで擦る。
@ENG:

@IDX:20948
@OFF:0x60c1
@SPK:
@JPN:　昨日は痛そうに見えた光景が、今は不思議とそうは　見えない。
@ENG:

@IDX:20949
@OFF:0x6119
@SPK:
@JPN:　割り切ってしまえば、こんなものなのだろうか？
@ENG:

@IDX:20950
@OFF:0x6155
@SPK:
@JPN:　罪悪感も嫌悪感もなく、あるのは見せられたことを　忠実に再現していく行動だけ。
@ENG:

@IDX:20951
@OFF:0x61b1
@SPK:
@JPN:　そこには感情や思考などといった人間らしさなど、　微塵も含まれてない。
@ENG:

@IDX:20952
@OFF:0x6205
@SPK:
@JPN:　……ほとんど機械と一緒だ。
@ENG:

@IDX:20953
@OFF:0x623d
@SPK:
@JPN:　こうして作業を進めていくと、心まで機械になって　しまうような気がしてくる。
@ENG:

@IDX:20954
@OFF:0x6297
@SPK:
@JPN:　死体洗いという機械に放り込まれた一つの歯車。
@ENG:

@IDX:20955
@OFF:0x62d3
@SPK:
@JPN:　本当にそうなってしまえば、死体を抱えるのに悩む　必要もなくなるに違いない。
@ENG:

@IDX:20956
@OFF:0x632d
@SPK:
@JPN:　そうすれば、こんな目に遭わずに済んだはずだ。
@ENG:

@IDX:20957
@OFF:0x6379
@SPK:
@JPN:　醜く歪んだ肩が、死体の顔や手を洗う時に嫌でも目　に入る。
@ENG:

@IDX:20958
@OFF:0x63c1
@SPK:
@JPN:　意識して目を逸らそうとしても、気がつくと視界に　入っている。
@ENG:

@IDX:20959
@OFF:0x640d
@SPK:
@JPN:　自分の失敗を目に焼きつけようとするように。
@ENG:

@IDX:20960
@OFF:0x6459
@SPK:
@JPN:　それでも手は休むことなく動き続ける。
@ENG:

@IDX:20961
@OFF:0x648d
@SPK:
@JPN:　僕の意識と無関係に作業は進み、ブラシが筋肉質な　身体を滑っていく。
@ENG:

@IDX:20962
@OFF:0x656e
@SPK:
@JPN:　そして……全ての作業が終わった。
@ENG:

@IDX:20963
@OFF:0x660e
@SPK:
@JPN:　連絡を入れると、すぐに鏑木さんが来て確認作業を　始めた。
@ENG:

@IDX:20964
@OFF:0x6656
@SPK:
@JPN:　僕はただ、呆然とその様子を眺めている。
@ENG:

@IDX:20965
@OFF:0x669c
@SPK:
@JPN:　今のところ、何も言ってこない。
@ENG:

@IDX:20966
@OFF:0x66ca
@SPK:
@JPN:　肩が外れてることに気づいてないのか？
@ENG:

@IDX:20967
@OFF:0x66fe
@SPK:
@JPN:　もしかして、最初から外れていたんじゃないか？
@ENG:

@IDX:20968
@OFF:0x673a
@SPK:
@JPN:　だとしたら、あれは僕のせいじゃない。
@ENG:

@IDX:20970
@OFF:0x681d
@SPK:［鏑木］
@JPN:　よう、終わったぞ。
@ENG:

@IDX:20973
@OFF:0x6867
@SPK:[\protag]
@JPN:　あ、どうも……どうでした？
@ENG:

@IDX:20975
@OFF:0x6940
@SPK:［鏑木］
@JPN:　それなんだがな……一つ聞きたいことがあるんだが。
@ENG:

@IDX:20978
@OFF:0x69a8
@SPK:[\protag]
@JPN:　……何ですか？
@ENG:

@IDX:20980
@OFF:0x69fb
@SPK:［鏑木］
@JPN:　死体の肩だが……あれ、最初からあんな状態だったか？　俺は何も聞かされていないんだが……。
@ENG:

@IDX:20983
@OFF:0x6a8b
@SPK:[\protag]
@JPN:　…………分かりません。
@ENG:

@IDX:20985
@OFF:0x6ae6
@SPK:［鏑木］
@JPN:　分からない？　どういう意味だ？
@ENG:

@IDX:20988
@OFF:0x6b3c
@SPK:[\protag]
@JPN:　気がついたらああなってたんです。確かに、死体を運ぶ時に手が滑って、腕を掴んだりはしましたけど……。
@ENG:

@IDX:20990
@OFF:0x6be3
@SPK:［鏑木］
@JPN:　なんだ、じゃあその時に外れたんだな。
@ENG:

@IDX:20991
@OFF:0x6c39
@SPK:
@JPN:　鏑木さんの言葉が、深く心に突き刺さる。
@ENG:

@IDX:20992
@OFF:0x6c6f
@SPK:
@JPN:　……彼には僕を責めるつもりなど、毛頭ないのかも　しれない。
@ENG:

@IDX:20993
@OFF:0x6cb9
@SPK:
@JPN:　だが彼の一言は、避けよう、忘れようとした記憶の　蓋を強引にこじ開けた。
@ENG:

@IDX:20994
@OFF:0x6d0f
@SPK:
@JPN:　肩を外した時の音や手応えと共に、罪の意識までが　蘇ってくる。
@ENG:

@IDX:20996
@OFF:0x6da4
@SPK:［鏑木］
@JPN:　どうした。顔が真っ青だぞ？
@ENG:

@IDX:20999
@OFF:0x6df6
@SPK:[\protag]
@JPN:　だ、だって僕は、腕を掴んで引っ張っただけなのに……そんな簡単に肩が外れるわけないでしょう？　どうしてそんな……。
@ENG:

@IDX:21001
@OFF:0x6eab
@SPK:［鏑木］
@JPN:　そうか……言い忘れていたな。死体は自分で支えようとしないから、関節が外れやすいんだ。
@ENG:

@IDX:21004
@OFF:0x6f37
@SPK:[\protag]
@JPN:　そんなこと、今更言われても……。
@ENG:

@IDX:21006
@OFF:0x6f9c
@SPK:［鏑木］
@JPN:　気にするな……とまでは言わないが、あのくらい、傷のうちに入らんよ。それに、もう治ってる。
@ENG:

@IDX:21009
@OFF:0x702c
@SPK:[\protag]
@JPN:　え……？
@ENG:

@IDX:21011
@OFF:0x7079
@SPK:［鏑木］
@JPN:　確認のついでに治しておいた。相手は死体だから『直した』の方が正しいかもしれんがね。
@ENG:

@IDX:21014
@OFF:0x7103
@SPK:[\protag]
@JPN:　は？　正しい……って？
@ENG:

@IDX:21016
@OFF:0x715e
@SPK:［鏑木］
@JPN:　いや、だからな、死体は物……ああ！　もういい。
@ENG:

@IDX:21018
@OFF:0x71d1
@SPK:［鏑木］
@JPN:　とにかくもう肩は外れてない。失敗した経験は教訓として、次に活かせ。あの程度で勉強になるんなら安いものだ。
@ENG:

@IDX:21021
@OFF:0x7271
@SPK:[\protag]
@JPN:　安い……ですか？
@ENG:

@IDX:21023
@OFF:0x72c6
@SPK:［鏑木］
@JPN:　ああ、安いな。今回は報告もしない。さっさと帰って嫌なことは忘れるんだな。
@ENG:

@IDX:21026
@OFF:0x7346
@SPK:[\protag]
@JPN:　え？　帰っていいんですか？
@ENG:

@IDX:21028
@OFF:0x73a5
@SPK:［鏑木］
@JPN:　ああ、いいぞ。肩のことが少し気になっただけで、それ以外はきちんと洗えてたからな。
@ENG:

@IDX:21031
@OFF:0x742d
@SPK:[\protag]
@JPN:　そうですか……良かった……。
@ENG:

@IDX:21033
@OFF:0x748e
@SPK:［鏑木］
@JPN:　まあ、初めてにしては上出来だろうな。俺が初めての時は……ん？　おい！　大丈夫か？
@ENG:

@IDX:21036
@OFF:0x7516
@SPK:[\protag]
@JPN:　……はい？
@ENG:

@IDX:21038
@OFF:0x7565
@SPK:［鏑木］
@JPN:　なんだかユラユラ揺れてるぞ。
@ENG:

@IDX:21041
@OFF:0x75b9
@SPK:[\protag]
@JPN:　は、はは……なんだか安心したら……気が抜けちゃったみたいで……。
@ENG:

@IDX:21043
@OFF:0x763e
@SPK:［鏑木］
@JPN:　おいおい、目が怖いぞ？　虚ろな感じで……大丈夫なのか？
@ENG:

@IDX:21046
@OFF:0x76ac
@SPK:[\protag]
@JPN:　すいません……なんだか変な感じで……目眩がして……うっ。
@ENG:

@IDX:21048
@OFF:0x7729
@SPK:［鏑木］
@JPN:　お、おい！　こんなところで倒れるな。もうここはいいから。早く帰って身体を休めろ。
@ENG:

@IDX:21051
@OFF:0x77b1
@SPK:[\protag]
@JPN:　あ、はい……じゃあそうします。
@ENG:

@IDX:21053
@OFF:0x7814
@SPK:［鏑木］
@JPN:　きちんと休んで、しっかり回復しろよ？　調子悪いから代わってくれなんて言われても、俺はいやだからな。
@ENG:

@IDX:21056
@OFF:0x78ae
@SPK:[\protag]
@JPN:　あ、はい……分かりました……それじゃあ失礼します。
@ENG:

@IDX:21057
@OFF:0x792b
@SPK:
@JPN:　もう、どうしたらいいのか分からない。
@ENG:

@IDX:21058
@OFF:0x795f
@SPK:
@JPN:　罪悪感が頭を満たし、まともに考えられない。
@ENG:

@IDX:21059
@OFF:0x7999
@SPK:
@JPN:　作業を続けるとか早く終わらせるとか、そんなこと　もうどうだっていい。
@ENG:

@IDX:21060
@OFF:0x79ed
@SPK:
@JPN:　懺悔したい……許してもらえなくてもいい……ただ　誰かに謝りたい。
@ENG:

@IDX:21061
@OFF:0x7aa9
@SPK:
@JPN:　…………謝ろう。
@ENG:

@IDX:21062
@OFF:0x7ac9
@SPK:
@JPN:　僕が自由に仕事の話をできる、唯一の相手。
@ENG:

@IDX:21063
@OFF:0x7b01
@SPK:
@JPN:　彼ならば、僕の話を聞いてくれるだろう。
@ENG:

@IDX:21064
@OFF:0x7b37
@SPK:
@JPN:　ヨロヨロとインターフォンに近寄り、震える指先で　呼び出しボタンを押す。
@ENG:

@IDX:21066
@OFF:0x7bd6
@SPK:［鏑木］
@JPN:　なんだ？　もう終わったのか？　初めてにしては、随分と早いじゃないか。
@ENG:

@IDX:21069
@OFF:0x7c52
@SPK:[\protag]
@JPN:　いえ、そうじゃなくて……。
@ENG:

@IDX:21071
@OFF:0x7cb1
@SPK:［鏑木］
@JPN:　泣いてるのか？　何があったんだ？
@ENG:

@IDX:21074
@OFF:0x7d09
@SPK:[\protag]
@JPN:　僕は……とんでもない失敗を……。死体に傷を……。
@ENG:

@IDX:21076
@OFF:0x7d7e
@SPK:［鏑木］
@JPN:　傷？　……分かった。すぐそっちに行く。
@ENG:

@IDX:21077
@OFF:0x7dd6
@SPK:
@JPN:　これで、鏑木さんが来てくれる。
@ENG:

@IDX:21078
@OFF:0x7e04
@SPK:
@JPN:　彼に謝って、審判を仰ごう……それ以外、今の僕に　できることはない。
@ENG:

@IDX:21079
@OFF:0x7e56
@SPK:
@JPN:　その結果、クビになったとしても構わない。
@ENG:

@IDX:21080
@OFF:0x7e8e
@SPK:
@JPN:　自分が楽をしたい、死体に触れたくない、それだけ　のために、こんな失敗をしてしまったのだから。
@ENG:

@IDX:21081
@OFF:0x7f14
@SPK:
@JPN:　…
@ENG:

@IDX:21082
@OFF:0x7f24
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:21083
@OFF:0x7f32
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:21084
@OFF:0x7f40
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:21085
@OFF:0x7f4e
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:21086
@OFF:0x7f5c
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:21087
@OFF:0x7f6a
@SPK:
@JPN:。
@ENG:

@IDX:21089
@OFF:0x8045
@SPK:［鏑木］
@JPN:　ほら、来てやったぞ。
@ENG:

@IDX:21092
@OFF:0x8091
@SPK:[\protag]
@JPN:　すみま、せん……僕、もう、どうしたらいいのか……。
@ENG:

@IDX:21094
@OFF:0x8108
@SPK:［鏑木］
@JPN:　昨日も言っただろ？　分からないことがあったら呼べと。で、傷つけた死体ってのはあれか？
@ENG:

@IDX:21097
@OFF:0x8194
@SPK:[\protag]
@JPN:　はい……。
@ENG:

@IDX:21098
@OFF:0x81e0
@SPK:
@JPN:　鏑木さんは僕の肩をポンと叩くと、何のためらいも　ない軽い足取りで死体に近づいていく。
@ENG:

@IDX:21099
@OFF:0x8244
@SPK:
@JPN:　死体の肩に残る、罪の証。
@ENG:

@IDX:21100
@OFF:0x826c
@SPK:
@JPN:　それを念入りに確認して、こちらに戻ってくる。
@ENG:

@IDX:21102
@OFF:0x8357
@SPK:［鏑木］
@JPN:　……肩か？
@ENG:

@IDX:21105
@OFF:0x8399
@SPK:[\protag]
@JPN:　はい……僕、どうしても密着したくなくって……それで、手を抜いたらあんな風に……。
@ENG:

@IDX:21107
@OFF:0x842e
@SPK:［鏑木］
@JPN:　そうか……言い忘れていたな。死体は自分で支えようとしないから、関節が外れやすいんだ。
@ENG:

@IDX:21110
@OFF:0x84ba
@SPK:[\protag]
@JPN:　でも……僕が外したことに変わりないです……。
@ENG:

@IDX:21112
@OFF:0x852b
@SPK:［鏑木］
@JPN:　気にするな……とまでは言わないが、あのくらい、傷のうちに入らんよ。それに、もう治ってる。
@ENG:

@IDX:21115
@OFF:0x85cb
@SPK:[\protag]
@JPN:　え……？
@ENG:

@IDX:21117
@OFF:0x8692
@SPK:［鏑木］
@JPN:　治したと言ったんだ。あのくらいならすぐに治る。これ以上気にする必要はない。
@ENG:

@IDX:21118
@OFF:0x877e
@SPK:
@JPN:　思わず死体に目を向ける。
@ENG:

@IDX:21119
@OFF:0x87a6
@SPK:
@JPN:　確かに、伸びていた肩が元通りになっている。
@ENG:

@IDX:21120
@OFF:0x87e0
@SPK:
@JPN:　傷つけた死体を治す。
@ENG:

@IDX:21121
@OFF:0x8804
@SPK:
@JPN:　外した肩をはめる。
@ENG:

@IDX:21122
@OFF:0x8826
@SPK:
@JPN:　……そんなこと、考えもしなかった。
@ENG:

@IDX:21124
@OFF:0x8963
@SPK:［鏑木］
@JPN:　とにかくもう肩は外れてない。失敗した経験は教訓として、次に活かせ。あの程度で勉強になるんなら安いものだ。
@ENG:

@IDX:21127
@OFF:0x8a03
@SPK:[\protag]
@JPN:　でも……。
@ENG:

@IDX:21129
@OFF:0x8a52
@SPK:［鏑木］
@JPN:　もちろん洗う時にも傷つく可能性はある。まだ洗ってないんだろ？　その時に気をつけてくれればいい。
@ENG:

@IDX:21132
@OFF:0x8ae8
@SPK:[\protag]
@JPN:　……はい。ありがとうございました。
@ENG:

@IDX:21134
@OFF:0x8b4f
@SPK:［鏑木］
@JPN:　では、俺はもう行くぞ。あまり時間をかけないでくれ。
@ENG:

@IDX:21135
@OFF:0x8bd3
@SPK:
@JPN:　アドバイスとも励ましとも受け取れる言葉を残し、　鏑木さんは部屋を後にした。
@ENG:

@IDX:21136
@OFF:0x8c2d
@SPK:
@JPN:　失敗した経験は教訓として、次に活かせ……そんな　ポジティブな発想、僕一人ではできなかった。
@ENG:

@IDX:21137
@OFF:0x8c97
@SPK:
@JPN:　ずっとウジウジしたままか、或いはうろたえて仕事　にならなかったかのいずれかだろう。
@ENG:

@IDX:21138
@OFF:0x8d07
@SPK:
@JPN:　無論、死体を傷つけたという罪悪感は、今も残って　いる。
@ENG:

@IDX:21139
@OFF:0x8d4d
@SPK:
@JPN:　肩の外れた音、手応え、伸びた腕……どれも頭から　離れない。
@ENG:

@IDX:21140
@OFF:0x8d97
@SPK:
@JPN:　全てのイメージが僕を責め苛む。
@ENG:

@IDX:21141
@OFF:0x8dc5
@SPK:
@JPN:　これは報い。
@ENG:

@IDX:21142
@OFF:0x8de1
@SPK:
@JPN:　僕の愚かさが招いた失敗に対する報いなのだ。
@ENG:

@IDX:21143
@OFF:0x8e2b
@SPK:
@JPN:　だからこそ、これ以上失敗はできない。
@ENG:

@IDX:21144
@OFF:0x8e5f
@SPK:
@JPN:　今の僕にできるのは、鏑木さんと同じくらいきれい　に死体を洗い上げることだけ。
@ENG:

@IDX:21145
@OFF:0x8ebb
@SPK:
@JPN:　それ以外に、この罪悪感を消す術はない。
@ENG:

@IDX:21146
@OFF:0x8ef1
@SPK:
@JPN:　もう、死体に触るのが嫌などと言ってられない。
@ENG:

@IDX:21147
@OFF:0x8f3f
@SPK:
@JPN:　デッキブラシとタワシを手に、死体へ近づく。
@ENG:

@IDX:21148
@OFF:0x8f79
@SPK:
@JPN:　これからが、いよいよ本番だ。
@ENG:

@IDX:21149
@OFF:0x9035
@SPK:
@JPN:　仰向けになった死体を手順に従って洗っていく。
@ENG:

@IDX:21150
@OFF:0x9071
@SPK:
@JPN:　まずは全体を大雑把に……。
@ENG:

@IDX:21151
@OFF:0x909b
@SPK:
@JPN:　それから細かい部分を……。
@ENG:

@IDX:21152
@OFF:0x90c5
@SPK:
@JPN:　できる限り鏑木さんの手本を真似ることに全神経を　集中させていく。
@ENG:

@IDX:21153
@OFF:0x9125
@SPK:
@JPN:　だが、なかなかうまくいかない。
@ENG:

@IDX:21154
@OFF:0x9153
@SPK:
@JPN:　緊張で身体が強張り、鏑木さんのようにスムーズに　洗うことができない。
@ENG:

@IDX:21155
@OFF:0x91a7
@SPK:
@JPN:　下手くそな人形師が操る人形のような動きで、ただ　形だけを真似て動いていく。
@ENG:

@IDX:21156
@OFF:0x9283
@SPK:
@JPN:　そして、うつ伏せになった背中。
@ENG:

@IDX:21157
@OFF:0x92b1
@SPK:
@JPN:　とてもこれが死体だなどとは思えない……。
@ENG:

@IDX:21158
@OFF:0x92e9
@SPK:
@JPN:　鍛え上げられた背筋が、健康的にさえ見える。
@ENG:

@IDX:21159
@OFF:0x9323
@SPK:
@JPN:　この人は、どんな病気で亡くなったのか……。
@ENG:

@IDX:21160
@OFF:0x935d
@SPK:
@JPN:　余計なことを想像して、気が滅入ってしまう。
@ENG:

@IDX:21161
@OFF:0x93a5
@SPK:
@JPN:　ここを洗えば、終わりにできる……。
@ENG:

@IDX:21162
@OFF:0x93d7
@SPK:
@JPN:　慌てて頭を切り換え、萎えかけた気力を何とか奮い　起こす。
@ENG:

@IDX:21163
@OFF:0x9427
@SPK:
@JPN:　……余計なことは、考えちゃいけない。
@ENG:

@IDX:21164
@OFF:0x945b
@SPK:
@JPN:　鏑木さんの言葉を思い出しながらブラシを手に取り　ぎこちない動きで作業を再開した……。
@ENG:

@IDX:21166
@OFF:0x961f
@SPK:［鏑木］
@JPN:　……で、終わったのはいいが……どうした？
@ENG:

@IDX:21169
@OFF:0x967f
@SPK:[\protag]
@JPN:　…………疲れました……。
@ENG:

@IDX:21171
@OFF:0x96dc
@SPK:［鏑木］
@JPN:　そうか。初めてならそんなものだろうな……。初仕事の感想はどうだ？
@ENG:

@IDX:21174
@OFF:0x9754
@SPK:[\protag]
@JPN:　…………キツイです……。
@ENG:

@IDX:21175
@OFF:0x979e
@SPK:
@JPN:　遺体を洗い終え、鏑木さんを呼んだ。
@ENG:

@IDX:21176
@OFF:0x97d0
@SPK:
@JPN:　その後は、部屋の隅にへたり込んだまま。
@ENG:

@IDX:21177
@OFF:0x9806
@SPK:
@JPN:　立ち上がる気力はおろか、思考をまとめることさえ　ままならない。
@ENG:

@IDX:21178
@OFF:0x9854
@SPK:
@JPN:　なにしろ、彼がいつ部屋の中に入ってきたのかすら　分からなかったのだから。
@ENG:

@IDX:21179
@OFF:0x98bc
@SPK:
@JPN:　作業の内容は、ほとんど覚えていない。
@ENG:

@IDX:21180
@OFF:0x98f0
@SPK:
@JPN:　それほど簡単にこなせたから……ではない。
@ENG:

@IDX:21181
@OFF:0x9928
@SPK:
@JPN:　そんなことを気にしている余裕がなかったから。
@ENG:

@IDX:21182
@OFF:0x9964
@SPK:
@JPN:　その代わり、死体に触った感触や間近に見た死体の　顔が脳裏に焼きついて離れない。
@ENG:

@IDX:21184
@OFF:0x9a7f
@SPK:［鏑木］
@JPN:　本当につらそうだな……顔が真っ青だぞ。それになんだかユラユラして……。
@ENG:

@IDX:21187
@OFF:0x9afd
@SPK:[\protag]
@JPN:　本当につらいです……それになんだか目眩が……。
@ENG:

@IDX:21189
@OFF:0x9b70
@SPK:［鏑木］
@JPN:　そこまで酷いとはな……一応ちゃんと洗えているから、今日はもういい。帰って休め。
@ENG:

@IDX:21192
@OFF:0x9bf6
@SPK:[\protag]
@JPN:　いいん……ですか？
@ENG:

@IDX:21194
@OFF:0x9c4d
@SPK:［鏑木］
@JPN:　別に構わんよ。それできちんと身体を休めろ。調子が悪いから代わってくれなんて言われても、俺はいやだからな。
@ENG:

@IDX:21197
@OFF:0x9ced
@SPK:[\protag]
@JPN:　はい……分かりました……。
@ENG:

@IDX:21198
@OFF:0x9dfa
@SPK:
@JPN:　部屋から出た途端、目眩がさらに激しくなった。
@ENG:

@IDX:21199
@OFF:0x9e36
@SPK:
@JPN:　視界が一気に暗くなり、足に力が入らない。
@ENG:

@IDX:21201
@OFF:0x9f1d
@SPK:［悠紀］
@JPN:　お疲れ様です。
@ENG:

@IDX:21204
@OFF:0x9f63
@SPK:[\protag]
@JPN:　あ……御堂……さん？
@ENG:

@IDX:21206
@OFF:0xa032
@SPK:［悠紀］
@JPN:　あら？　ずいぶんお顔の色が優れないようですけど……もしかして、ホルマリンで酔ってしまわれたのですか？
@ENG:

@IDX:21209
@OFF:0xa0ce
@SPK:[\protag]
@JPN:　何でも……ない…………よ。
@ENG:

@IDX:21211
@OFF:0xa12d
@SPK:［悠紀］
@JPN:　何でもないって……
@ENG:

@IDX:21212
@OFF:0xa1d7
@SPK:
@JPN:あっ！？
@ENG:

@IDX:21213
@OFF:0xa2af
@SPK:
@JPN:　限界……だ。
@ENG:

@IDX:21214
@OFF:0xa2cb
@SPK:
@JPN:　膝から力が抜け、彼女の声が急激に遠ざかる。
@ENG:

@IDX:21215
@OFF:0xa305
@SPK:
@JPN:　視界が狭まり幕が下りるように周囲が暗くなる。
@ENG:

@IDX:21216
@OFF:0xa341
@SPK:
@JPN:　闇に捕らわれる瞬間、一瞬視界に白衣が迫ってきた　ような気がした。
@ENG:

@IDX:21217
@OFF:0xa391
@SPK:
@JPN:　だが、黒に侵食された僕の意識は、止まることなく　拡散していった。
@ENG:

@IDX:21218
@OFF:0xa423
@SPK:
@JPN:　…
@ENG:

@IDX:21219
@OFF:0xa433
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:21220
@OFF:0xa441
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:21221
@OFF:0xa44f
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:21222
@OFF:0xa463
@SPK:
@JPN:んん……。
@ENG:

@IDX:21223
@OFF:0xa47b
@SPK:
@JPN:　ここは……どこだ？
@ENG:

@IDX:21224
@OFF:0xa49d
@SPK:
@JPN:　……僕はどうなったんだ？
@ENG:

@IDX:21225
@OFF:0xa4c5
@SPK:
@JPN:　頭が朦朧としている。
@ENG:

@IDX:21226
@OFF:0xa4e9
@SPK:
@JPN:　いったい僕は……。
@ENG:

@IDX:21227
@OFF:0xa51b
@SPK:
@JPN:　額に生まれる、冷たい感触。
@ENG:

@IDX:21228
@OFF:0xa545
@SPK:
@JPN:　これは……掌？
@ENG:

@IDX:21229
@OFF:0xa563
@SPK:
@JPN:　でも、誰の手だ？
@ENG:

@IDX:21230
@OFF:0xa583
@SPK:
@JPN:　指先が髪をかき分け、優しく額に触れる。
@ENG:

@IDX:21231
@OFF:0xa5b9
@SPK:
@JPN:　熱でも測るように、柔らかく額を覆っている。
@ENG:

@IDX:21232
@OFF:0xa6d3
@SPK:
@JPN:　ゆっくり目を開けて最初に見えたのは、不安そうに　僕の顔を覗き込む御堂さんの姿。
@ENG:

@IDX:21233
@OFF:0xa731
@SPK:
@JPN:　ここはどこか、なぜ彼女が不安そうにしてるのか、　正直よく分からない。
@ENG:

@IDX:21234
@OFF:0xa785
@SPK:
@JPN:　分かるのは、自分が何かの上に横になっていること　だけ……その理由もはっきりしない。
@ENG:

@IDX:21237
@OFF:0xa823
@SPK:[\protag]
@JPN:　うっ……く……。
@ENG:

@IDX:21239
@OFF:0xa8ee
@SPK:［悠紀］
@JPN:　あ、お目覚めですか？
@ENG:

@IDX:21242
@OFF:0xa93a
@SPK:[\protag]
@JPN:　…………ここは？
@ENG:

@IDX:21244
@OFF:0xa98f
@SPK:［悠紀］
@JPN:　更衣室です。突然倒れられたので、職員の方に手伝っていただいてここに……大丈夫ですか？
@ENG:

@IDX:21247
@OFF:0xaa1b
@SPK:[\protag]
@JPN:　え、ええ、何とか……。
@ENG:

@IDX:21248
@OFF:0xaa65
@SPK:
@JPN:　頭がはっきりして来るにつれ、徐々に何があったか　思い出してきた。
@ENG:

@IDX:21249
@OFF:0xaab5
@SPK:
@JPN:　確か部屋を出た瞬間、目の前が暗くなって……。
@ENG:

@IDX:21250
@OFF:0xaaf1
@SPK:
@JPN:　どうやらあのまま倒れたらしい。
@ENG:

@IDX:21252
@OFF:0xab68
@SPK:［悠紀］
@JPN:　部屋を出られた時からお顔の色が悪いとは思ったのですが……一体何があったんですか？
@ENG:

@IDX:21255
@OFF:0xabf0
@SPK:[\protag]
@JPN:　いえ、それは……それより、驚かせてしまいましたか？
@ENG:

@IDX:21257
@OFF:0xac67
@SPK:［悠紀］
@JPN:　ええ、それはもう……。突然こちらに倒れてこられて、最初は何が起きたのか分かりませんでした。
@ENG:

@IDX:21260
@OFF:0xacf9
@SPK:[\protag]
@JPN:　えっ！？　僕、御堂さんの方に倒れたんですか？　だ、大丈夫でしたか？　怪我とかさせませんでしたか？
@ENG:

@IDX:21262
@OFF:0xad9e
@SPK:［悠紀］
@JPN:　ええ、そんなに心配なさらなくても大丈夫ですよ。倒れた拍子にちょっと肩を打ちましたけど、別に怪我とかは……。
@ENG:

@IDX:21265
@OFF:0xae40
@SPK:[\protag]
@JPN:　肩を！？
@ENG:

@IDX:21266
@OFF:0xae7c
@SPK:
@JPN:　肩……その言葉が脳裏で化学反応を起こし、急激に　罪の意識が膨れ上がる。
@ENG:

@IDX:21267
@OFF:0xaed2
@SPK:
@JPN:　遺体の肩を外してしまった……。
@ENG:

@IDX:21268
@OFF:0xaf00
@SPK:
@JPN:　その意識の奔流は、僕の身体を強引に起き上がらせ　ようとする。
@ENG:

@IDX:21271
@OFF:0xaf88
@SPK:[\protag]
@JPN:　……ウッ！
@ENG:

@IDX:21273
@OFF:0xb069
@SPK:［悠紀］
@JPN:　あ！　まだ、無理をされては……。
@ENG:

@IDX:21274
@OFF:0xb0bd
@SPK:
@JPN:　再び強い目眩に襲われる。
@ENG:

@IDX:21275
@OFF:0xb0e5
@SPK:
@JPN:　脂汗が滲み出し、身体から力が抜けていく。
@ENG:

@IDX:21276
@OFF:0xb11d
@SPK:
@JPN:　慌てて添えられた御堂さんの手に支えられながら、　再び身体を横たえる。
@ENG:

@IDX:21279
@OFF:0xb21d
@SPK:[\protag]
@JPN:　すみません……。
@ENG:

@IDX:21281
@OFF:0xb272
@SPK:［悠紀］
@JPN:　いいえ、患者さんを助けるのが私たち看護婦の仕事です。お気になさらないでください。
@ENG:

@IDX:21284
@OFF:0xb2fa
@SPK:[\protag]
@JPN:　……僕は……患者ですか？
@ENG:

@IDX:21286
@OFF:0xb357
@SPK:［悠紀］
@JPN:　ここは病院ですよ？　病院にいて具合が悪いのですから、患者さんのようなものです。
@ENG:

@IDX:21289
@OFF:0xb3dd
@SPK:[\protag]
@JPN:　……そうですね。
@ENG:

@IDX:21291
@OFF:0xb432
@SPK:［悠紀］
@JPN:　はい。ですから看護婦の言うことは聞いてもらわないと……。
@ENG:

@IDX:21294
@OFF:0xb4a2
@SPK:[\protag]
@JPN:　分かりました。で、どうすればいいですか？
@ENG:

@IDX:21296
@OFF:0xb50f
@SPK:［悠紀］
@JPN:　そうですね……目を瞑ってリラックスしてください。
@ENG:

@IDX:21297
@OFF:0xb573
@SPK:
@JPN:　御堂さんにこんな一面があるとは思わなかった。
@ENG:

@IDX:21298
@OFF:0xb5af
@SPK:
@JPN:　素っ気なく話す彼女と、優しく介抱してくれる彼女　……二つの顔に、正直戸惑いを感じる。
@ENG:

@IDX:21299
@OFF:0xb613
@SPK:
@JPN:　もっとも、些細な問題に過ぎないが。
@ENG:

@IDX:21300
@OFF:0xb6c8
@SPK:
@JPN:　彼女の言葉に甘え、ゆっくりと目を閉じる。
@ENG:

@IDX:21301
@OFF:0xb700
@SPK:
@JPN:　鼻に届く、清潔感に溢れた匂い。
@ENG:

@IDX:21302
@OFF:0xb72e
@SPK:
@JPN:　時折額に触れる手が、疲れ切った身体と心を優しく　包んでくれる。
@ENG:

@IDX:21303
@OFF:0xb77c
@SPK:
@JPN:　これが『手当て』というものなのだろうか。
@ENG:

@IDX:21304
@OFF:0xb7c6
@SPK:
@JPN:　心が静かに落ち着いていく。
@ENG:

@IDX:21305
@OFF:0xb7f0
@SPK:
@JPN:　癒されていく……そうとしか形容しようのない心地　だった。
@ENG:

@IDX:21307
@OFF:0xb93b
@SPK:［悠紀］
@JPN:　あ、もうよろしいんですか？
@ENG:

@IDX:21310
@OFF:0xb98d
@SPK:[\protag]
@JPN:　ええ、もう大丈夫です。ありがとうございました。
@ENG:

@IDX:21312
@OFF:0xba84
@SPK:［悠紀］
@JPN:　そうですか……では、報告書の方にサインをお願いします。
@ENG:

@IDX:21315
@OFF:0xbaf2
@SPK:[\protag]
@JPN:　はい。
@ENG:

@IDX:21316
@OFF:0xbb2a
@SPK:
@JPN:　本当は、まだ多少の目眩が残っている。
@ENG:

@IDX:21317
@OFF:0xbb5e
@SPK:
@JPN:　できることなら、御堂さんに癒されたい。
@ENG:

@IDX:21318
@OFF:0xbb94
@SPK:
@JPN:　だが、彼女にも仕事がある。
@ENG:

@IDX:21319
@OFF:0xbbbe
@SPK:
@JPN:　僕にばかり関わらせるわけにもいかない。
@ENG:

@IDX:21320
@OFF:0xbbf4
@SPK:
@JPN:　せっかく優しくしてくれたんだ。
@ENG:

@IDX:21321
@OFF:0xbc22
@SPK:
@JPN:　彼女に迷惑をかけないようにしよう。
@ENG:

@IDX:21324
@OFF:0xbc90
@SPK:[\protag]
@JPN:　……これでいいですか？
@ENG:

@IDX:21326
@OFF:0xbceb
@SPK:［悠紀］
@JPN:　拝見します……あら？　傷つけてしまわれたんですか？　肩を脱臼……それでさっき、あんなに慌てたんですね？
@ENG:

@IDX:21329
@OFF:0xbd89
@SPK:[\protag]
@JPN:　はい。鏑木さんが治してくれたんですが、傷つけたのは事実ですから……。
@ENG:

@IDX:21331
@OFF:0xbe12
@SPK:［悠紀］
@JPN:　そうですか……。
@ENG:

@IDX:21334
@OFF:0xbe5a
@SPK:[\protag]
@JPN:　え？　あの……何で消すんですか？
@ENG:

@IDX:21336
@OFF:0xbebf
@SPK:［悠紀］
@JPN:　治ってるなら問題ありません。職員の方もそう言っていませんでしたか？
@ENG:

@IDX:21339
@OFF:0xbf39
@SPK:[\protag]
@JPN:　……言われました。
@ENG:

@IDX:21341
@OFF:0xbf90
@SPK:［悠紀］
@JPN:　でしたら、この記載は必要ありません。他には……特にありませんね？　では、私はこれで。
@ENG:

@IDX:21344
@OFF:0xc01c
@SPK:[\protag]
@JPN:　あっ！　あの……。
@ENG:

@IDX:21346
@OFF:0xc0e9
@SPK:［悠紀］
@JPN:　…………失礼します。
@ENG:

@IDX:21347
@OFF:0xc151
@SPK:
@JPN:　……唖然。
@ENG:

@IDX:21348
@OFF:0xc16b
@SPK:
@JPN:　報告書を受け取った彼女は、また前のような素っ気　ない態度に戻ってしまった。
@ENG:

@IDX:21349
@OFF:0xc1c5
@SPK:
@JPN:　何の優しい言葉をかけてくれることもなく、さっさ　と更衣室をあとにした。
@ENG:

@IDX:21350
@OFF:0xc22b
@SPK:
@JPN:　介抱してくれた時に見せてくれた優しい様子はウソ　だったのだろうか？
@ENG:

@IDX:21351
@OFF:0xc27d
@SPK:
@JPN:　あれは僕の弱気が見せた幻だったのではないか。
@ENG:

@IDX:21352
@OFF:0xc2b9
@SPK:
@JPN:　そう思えるほどのギャップを、彼女から感じた。
@ENG:

@IDX:21353
@OFF:0xc303
@SPK:
@JPN:　だが、あれは現実だった。
@ENG:

@IDX:21354
@OFF:0xc32b
@SPK:
@JPN:　額に残る彼女の手の柔らかさが、はっきりと僕にそ　う告げている。
@ENG:

@IDX:21355
@OFF:0xc379
@SPK:
@JPN:　ここに運んで優しく介抱してくれたのも、報告書を　受け取って素っ気なく出て行ったのも……どちらも　現実の彼女だ。
@ENG:

@IDX:21356
@OFF:0xc3f7
@SPK:
@JPN:　分からない……どちらが本当の彼女なのか……。
@ENG:

@IDX:21357
@OFF:0xc443
@SPK:
@JPN:　考えながら、作業着を脱いでいく。
@ENG:

@IDX:21358
@OFF:0xc473
@SPK:
@JPN:　どちらにしても、彼女に対する認識を改めなければ　いけない。
@ENG:

@IDX:21359
@OFF:0xc4bd
@SPK:
@JPN:　優しい一面もあるのだと。
@ENG:

@IDX:21360
@OFF:0xc4f1
@SPK:
@JPN:　脱ぎ終えた作業着をロッカーに戻し、普段着を身に　着けながらため息をつく。
@ENG:

@IDX:21361
@OFF:0xc549
@SPK:
@JPN:　強い疲労感が、身体にまとわりついている。
@ENG:

@IDX:21362
@OFF:0xc581
@SPK:
@JPN:　この調子では、今日も勉強ができなさそうだ。
@ENG:

@IDX:21363
@OFF:0xc5bb
@SPK:
@JPN:　無理にしたとしたら、明日の仕事に支障が出るかも　しれない。
@ENG:

@IDX:21364
@OFF:0xc605
@SPK:
@JPN:　仕方がない。
@ENG:

@IDX:21365
@OFF:0xc621
@SPK:
@JPN:　部屋に帰ったらさっさと寝てしまおう。
@ENG:

@IDX:21366
@OFF:0xc667
@SPK:
@JPN:　僕は、重い身体を引きずるようにして更衣室をあと　にした。
@ENG:

@IDX:21367
@OFF:0xc788
@SPK:
@JPN:　地下を出た途端に身体がフッと軽くなる。
@ENG:

@IDX:21368
@OFF:0xc7be
@SPK:
@JPN:　調子がいい、と言えるほどではないが、さっきより　はずっとマシだ。
@ENG:

@IDX:21369
@OFF:0xc80e
@SPK:
@JPN:　どういうことだろう。
@ENG:

@IDX:21370
@OFF:0xc832
@SPK:
@JPN:　仕事場から離れたからなのだろうか？
@ENG:

@IDX:21371
@OFF:0xc874
@SPK:
@JPN:　呆然としていた意識がはっきりしてくると、ロビー　の様子が昨日と違うことに気づいた。
@ENG:

@IDX:21372
@OFF:0xc8d6
@SPK:
@JPN:　そこには予想していたような喧噪がなかった。
@ENG:

@IDX:21373
@OFF:0xc910
@SPK:
@JPN:　騒がしかった昨日とはうって変わり、ここに来ても　外来患者の気配は全く感じられない。
@ENG:

@IDX:21374
@OFF:0xc980
@SPK:
@JPN:　今までは休診日に病院に来たことがなかった。
@ENG:

@IDX:21375
@OFF:0xc9ba
@SPK:
@JPN:　初めて訪れた場所であるかのように、周りをキョロ　キョロと見回す。
@ENG:

@IDX:21376
@OFF:0xca0a
@SPK:
@JPN:　まるで違う場所のようだ……。
@ENG:

@IDX:21377
@OFF:0xca36
@SPK:
@JPN:　時折行き過ぎる看護婦の足音以外は、ほとんど何も　聞こえてこない。
@ENG:

@IDX:21378
@OFF:0xca86
@SPK:
@JPN:　休みの日は、こんなにも静かなのか……。
@ENG:

@IDX:21380
@OFF:0xcb6d
@SPK:［志津江］
@JPN:　おや、また会ったねぇ？
@ENG:

@IDX:21383
@OFF:0xcbbb
@SPK:[\protag]
@JPN:　あれ？　志津江さんじゃないですか？　休診日に、こんな場所で何をしてるんですか？
@ENG:

@IDX:21385
@OFF:0xccc6
@SPK:［志津江］
@JPN:　何言ってんだい？　あたしら入院組にゃ、休みだろうがなんだろうが、そんなもん関係ないさね。
@ENG:

@IDX:21388
@OFF:0xcd56
@SPK:[\protag]
@JPN:　あ、そうか……。
@ENG:

@IDX:21390
@OFF:0xce23
@SPK:［志津江］
@JPN:　そういうことさ。で、そういう兄さんはこんな場所で何をしてるんだい？　薬のにおいなんかさせて……。
@ENG:

@IDX:21393
@OFF:0xcebb
@SPK:[\protag]
@JPN:　薬のにおい？　……ああ、仕事の帰りです。
@ENG:

@IDX:21395
@OFF:0xcfa0
@SPK:［志津江］
@JPN:　休みなのにかい？　ご苦労なこった……。
@ENG:

@IDX:21398
@OFF:0xcffe
@SPK:[\protag]
@JPN:　え、いや、まあ……。
@ENG:

@IDX:21400
@OFF:0xd0cf
@SPK:［志津江］
@JPN:　そうだ、そうだ。ご苦労なことと言えば、さっきそこで見かけたんだけどさ。
@ENG:

@IDX:21403
@OFF:0xd14d
@SPK:[\protag]
@JPN:　え？　なんですか急に。
@ENG:

@IDX:21405
@OFF:0xd1aa
@SPK:［志津江］
@JPN:　いいから最後までお聞きよ。
@ENG:

@IDX:21408
@OFF:0xd1fc
@SPK:[\protag]
@JPN:　は、はあ……。
@ENG:

@IDX:21410
@OFF:0xd251
@SPK:［志津江］
@JPN:　誰かがもどしたんだろうね、汚れた床をイヤな顔一つしないで片づけてる看護婦がいてさ、しかも平謝りしてくる相手に笑顔で応対してて……。
@ENG:

@IDX:21412
@OFF:0xd31a
@SPK:［志津江］
@JPN:　いやぁ、今時珍しいさね。いくら看護婦だからって、よくできた子だよ。
@ENG:

@IDX:21415
@OFF:0xd394
@SPK:[\protag]
@JPN:　そうなんですか、看護婦の鑑ですね。
@ENG:

@IDX:21417
@OFF:0xd3fd
@SPK:［志津江］
@JPN:　確か、名札には御堂とか書いてあったかな？
@ENG:

@IDX:21420
@OFF:0xd45d
@SPK:[\protag]
@JPN:　御堂……さん……？
@ENG:

@IDX:21422
@OFF:0xd4b6
@SPK:［志津江］
@JPN:　おや、知り合いかい？
@ENG:

@IDX:21425
@OFF:0xd502
@SPK:[\protag]
@JPN:　え？　あ、ええ、まあ……。
@ENG:

@IDX:21427
@OFF:0xd563
@SPK:［志津江］
@JPN:　彼女、いい子だよねぇ？　患者の間から聞こえてくるのはいい評判ばかりさね。
@ENG:

@IDX:21430
@OFF:0xd5e3
@SPK:[\protag]
@JPN:　そうなんですか？
@ENG:

@IDX:21432
@OFF:0xd63a
@SPK:［志津江］
@JPN:　兄さんもあんな子に看護されたいんじゃないかい？　それとももうされてたりしてね？
@ENG:

@IDX:21435
@OFF:0xd6c0
@SPK:[\protag]
@JPN:　はぁ？　……あの、どういう意味……。
@ENG:

@IDX:21437
@OFF:0xd72b
@SPK:［志津江］
@JPN:　ま、大した意味はないさ……そいじゃあ、あたしゃそろそろ行くさね。じゃあね！
@ENG:

@IDX:21438
@OFF:0xd7b9
@SPK:
@JPN:　話すだけ話して志津江さんは行ってしまった。
@ENG:

@IDX:21439
@OFF:0xd7f3
@SPK:
@JPN:　なぜか、あの人のペースには逆らえない。
@ENG:

@IDX:21440
@OFF:0xd839
@SPK:
@JPN:　……それにしても、こんな形で御堂さんの名を聞く　ことになるとは思わなかった。
@ENG:

@IDX:21441
@OFF:0xd895
@SPK:
@JPN:　評判のいい看護婦……。
@ENG:

@IDX:21442
@OFF:0xd8bb
@SPK:
@JPN:　彼女が素っ気ないのは、僕にだけなのか？
@ENG:

@IDX:21443
@OFF:0xd8ff
@SPK:
@JPN:　でも、今日は優しかった。
@ENG:

@IDX:21444
@OFF:0xd927
@SPK:
@JPN:　倒れた僕を、更衣室まで運んでくれて……。
@ENG:

@IDX:21445
@OFF:0xd95f
@SPK:
@JPN:　患者に接する時はいつもああなんだろうか？
@ENG:

@IDX:21446
@OFF:0xd997
@SPK:
@JPN:　いつもああだと嬉しいのに、なぜ僕には素っ気なく　接するのだろうか？
@ENG:

@IDX:21447
@OFF:0xd9e9
@SPK:
@JPN:　よく分からない人だ。
@ENG:

@IDX:21448
@OFF:0xdae3
@SPK:
@JPN:　夕暮れ時……といってもこの時期の夕暮れは非常に　遅い。
@ENG:

@IDX:21449
@OFF:0xdb29
@SPK:
@JPN:　本来なら夕食の時間。
@ENG:

@IDX:21450
@OFF:0xdb4d
@SPK:
@JPN:　だが今日も、食事はできそうにない。
@ENG:

@IDX:21451
@OFF:0xdb8d
@SPK:
@JPN:　その短い命をすり減らすように鳴く蝉の声が、朱に　染まった夕刻の空に物悲しげに響く。
@ENG:

@IDX:21452
@OFF:0xdbef
@SPK:
@JPN:　……数日の後には、彼らのうちの何匹かは醜く骸を　晒すことになるのだろう。
@ENG:

@IDX:21453
@OFF:0xdc47
@SPK:
@JPN:　にわかペシミストにでもなったかのような、そんな　悲観的な想像を、頭を振って追い払う。
@ENG:

@IDX:21454
@OFF:0xdcbb
@SPK:
@JPN:　……思考がネガティブになっているのは仕方のない　ことかもしれない。
@ENG:

@IDX:21455
@OFF:0xdd0d
@SPK:
@JPN:　何しろ、今日、僕は……。
@ENG:

@IDX:21456
@OFF:0xdd35
@SPK:
@JPN:　沈む心に浮き上がってくるのは、昼間のこと……。　
@ENG:

@IDX:21457
@OFF:0xdd87
@SPK:
@JPN:　初めて自分の手で死体を洗ったこと。
@ENG:

@IDX:21458
@OFF:0xddb9
@SPK:
@JPN:　仕事場の前で倒れ、御堂さんに介抱されたこと。
@ENG:

@IDX:21459
@OFF:0xddf5
@SPK:
@JPN:　そして……死体の肩を外してしまったこと。
@ENG:

@IDX:21460
@OFF:0xde48
@SPK:
@JPN:　鏑木さんは気にする必要はないと言ってくれた。
@ENG:

@IDX:21461
@OFF:0xde84
@SPK:
@JPN:　だが僕自身の記憶が、それを許してくれない。
@ENG:

@IDX:21462
@OFF:0xdebe
@SPK:
@JPN:　感触、音……その全てが償いを求め、僕を苛む。
@ENG:

@IDX:21463
@OFF:0xdf18
@SPK:
@JPN:　しかも僕は誤魔化そうとした。
@ENG:

@IDX:21464
@OFF:0xdf44
@SPK:
@JPN:　自分を誤魔化し、鏑木さんまで誤魔化そうと。
@ENG:

@IDX:21465
@OFF:0xdf7e
@SPK:
@JPN:　彼は一言も責めなかった。
@ENG:

@IDX:21466
@OFF:0xdfa6
@SPK:
@JPN:　だが、それがいかに卑劣な行動だったか、僕自身が　一番良く分かっている。
@ENG:

@IDX:21467
@OFF:0xdffc
@SPK:
@JPN:　このことは一生忘れられないだろう。
@ENG:

@IDX:21468
@OFF:0xe044
@SPK:
@JPN:　蝉の合唱が、申し合わせたように止んだ。
@ENG:

@IDX:21469
@OFF:0xe07a
@SPK:
@JPN:　窓の外に目を向けると、空は濃い藍色がその範囲を　広げつつある。
@ENG:

@IDX:21470
@OFF:0xe0c8
@SPK:
@JPN:　これ以上起きていても、夕食は摂れそうにない。
@ENG:

@IDX:21471
@OFF:0xe104
@SPK:
@JPN:　ならば、寝てしまった方がいい。
@ENG:

@IDX:21472
@OFF:0xe144
@SPK:
@JPN:　押入れから出した布団を敷き、身体を横たえる。
@ENG:

@IDX:21473
@OFF:0xe180
@SPK:
@JPN:　最後に一瞬だけ御堂さんの手の感触を思い出すと、　深い眠りへと落ちていった……。
@ENG:

